2023 6月 / Issue 145
サガシキ
小さな工夫が生み出すもの
持続可能性を高めていくには、近代建築界の巨匠ミース・ファン・デル・ローエが残した「神は細部に宿る(God is in the details)」という言葉のように、あらゆる資源利用において「小さな工夫」を積み重ねること。
持続可能な未来をつくる「小さなこと」の積み重ね。
環境問題と共に表出した資源・エネルギー問題。人口と経済の両面で拡大し続ける世界を支えているのは、いうまでもなく、地球の「限りある」資源です。人間はこの天然資源を、他の生物のように飲料・食料・住処(土地)として利用するだけでなく、自然界に存在しない人工物の製造や動力源として大量に消費します。資源利用という観点で考えれば、発展と消費は背中合わせ。埋蔵・生産量を遥かに超える消費は資源の枯渇をもたらし、同時に工業生産物に依存するあらゆる社会が終焉を迎えることになります。我々は数々の技術を駆使して大きな発展を遂げましたが、この先も継続的な成長を望むのであれば、経済活動のみを優先してひたすら消費するのではなく、すべての資源やエネルギーを「限りあるもの」と捉え、効率的な利用努力を重ねながら持続可能な社会への方向性を見出していくことが求められています。
商品に「寄り添う」ということは、商品や企業の代弁者として「思想・指針」を伝えていく役割も。
持続可能な社会へ向けた黎明期として「資源利用の意義」が問われる今、これを確実に伝える手段として「商品パッケージ」が注目されています。効率的な資源利用のためにパッケージが貢献できる領域は、再生産性の高い資源に切り替えること、あるいは、有限である資源を有効に使うこと。商品に寄り添い、流通するパッケージは「企業の考え方」を示すツールとして、企業と生活者をつなぎます。実は、商品パッケージを開封し、外からは見えない各部の構造やフォルムを眺めれば、商品の送り手である企業が「どんな姿勢でものづくりを考えているか」を伺い知ることができるのです。
起こすと自動で底を形成する、底ワンタッチ構造。底面「のりしろ」は機能に配慮して削る。
躯体を立体に保つ側面「のりしろ」も、一定の面積があれば機能を果たすので、ここを削る。
上部からの圧力を支える「フラップ」も商品の輸送や積み重ねに悪影響の出ない範囲で削る。
開口部を固定する「差し込み」は一定の面積を保持すれば機能は保たれるため、ここも削る。
商品パッケージは、中身(商品)の状態やサイズ・輸送方法に合わせて検討されるため、その多くが専用設計による「オーダーメイド」です。たとえば、紙器(紙箱)のように板状の紙を用いる場合、あらかじめ紙の規格サイズが決まっているので、限られた面積に「どのように配置するか」次第で、1枚あたりの用紙に配置できるパッケージの数量(面付数)、時には原材料紙の使用量(枚数)が変わります。さらに、箱として組み上げる構造支持パーツである「のりしろ・フラップ・差し込み」を強度(機能)保持に必要なだけ残して削ることで、1箱あたりの用紙量はもちろん、製造ロット全体の用紙量も削減できます。環境や資源の問題への真摯な姿勢が垣間見えるのは「小さなことも見逃さない」という商品の送り手である企業の姿勢。ひとつひとつの工夫は小さく、箱を解体・破棄するまで見えませんが、近代建築界の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの言葉どおり、アイデアは「細部に宿る」のです。
【sagasiki packaging Tips】
目利きの技
仕上がりが同じ容積の箱でも、展開図次第で面積は変わります。紙器(紙箱)パッケージはサイズの決まった用紙(板紙)に配置するので、展開図上の工夫はもちろん、紙の厚みも躯体強度に影響します。環境やコストに配慮した紙厚(強度)紙量(面積)での箱づくりであれば、積み重ねた知識と経験が欠かせません。それが、構造・素材の両面から「最適値」を導き出す、設計者の技です。
【Service Introduction】
すべてを活かす
サイズの決まった用紙(板紙)に「展開図」を配置する紙器(紙箱)パッケージ。用紙に図面をレイアウトした様子はまるでクッキーの「型抜き」のようです。そして、クッキーの「型抜き後の生地」と同じように、箱としては使わない「紙枠」部分が発生します。わたしたちの工場では、クッキー作りで型抜き後の生地をもう一度生地に再利用するように、紙枠部分を集めて回収し、紙に戻すリサイクル資材「古紙」として活用しています。
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