2025 12月 / Issue 160
みそ半様
「ブールドネージュ」パッケージ
ブック型パッケージは「本」というモチーフ自体が“物語性”を連想させるため、商品背景やストーリーを落とし込みやすく、本を読むような「開く」開封体験が物語への導入部。この演出こそ「開ける楽しみ=商品価値の一部」なのです。

開封は物語のはじまり。心を揺さぶる、パッケージ。
絵本に漫画、冒険小説。ドラマに演劇、そして映画。人は小さな頃から「物語」のあるコンテンツに惹かれます。学生時代の歴史年号暗記をはじめ、記憶したい事柄を文章化(物語化)して覚えるのも、その方が記憶の定着が高まりやすくなるため。ほかにも、自らの感情の抑揚、登場人物による行動指針の共感、感動をきっかけとした行動誘発など、わたしたちが物語から得ているのは「人間らしさ」そのもの。この考え方を応用したのが「ストーリーテリングマーケティング」と呼ばれる、ブランドの背景や商品の誕生のストーリーを伝えるマーケティング手法です。物語を通じて、商品やブランドとの感情的なつながりを育み、購入はもちろん、商品の魅力やブランド価値への共感を促します。モノが溢れる現代だからこそ、購入を迷う人の背中をそっと後押しする仕掛け、ストーリーテリング(物語づくり)は有効に働きます。

存在だけで「物語」を連想させる豪華な装丁の書籍。人の共通認識がパッケージ開発のヒント。
こうした「物語性」を重視した商品にぴったりなのが「ブック型(本型)」パッケージ。あたりまえにおこなう開封という行為に「本を開く=物語のはじまり」という示唆を与え、商品そのものを“物語を語る”存在に仕立てます。このとき、商品パッケージは輸送用の容器から、商品やブランドのストーリーを視覚的・体験的に伝える「舞台」へと昇華します。今回ご紹介するパッケージは、まさにこの好例。手がけたのは、長崎県南島原市で食品卸売を手掛ける「みそ半」様。ご依頼いただいたのは、上質な材料で仕上げたフランスの伝統菓子「ブールドネージュ」パッケージです。

蓋を内側に折り返して開封時用の「ストーリー欄」を設け、同時に強度もアップ。

角度をつけ動かないように固定した仕切り。商品の「顔」をはっきり見せる「ステージ」効果。

身箱側は「額縁」を設けて輸送時の衝撃に配慮。デリケートなお菓子を守る工夫のひとつ。

蓋の中央部で輝く、商品名を掲げた箔押しの光沢。イメージしたのは、豪華な装丁の書籍。
ブールドネージュはフランス語で「雪の玉」を意味するクッキー。作った人も貰った人も“幸せになる”とされる、幸福を象徴する伝統菓子です。ストーリーが明確なお菓子であることから、中身を守り・運ぶことに加えて「伝える」機能を持つ商品パッケージをブック型(本型)に仕上げ「物語の語り部」として役割を持たせていくことに。そして、パッケージ形状は堅牢さと組み立てに配慮した「N式」と呼ばれる蓋と身箱からなる一体型。身箱(本体)には額縁を設けることで、お菓子を保護しながら高級感を高め、蓋は外側と内側を貼り合わせて強度を高めた二重構造。ここに、商品がずれることなく並べられる「フラップ付きの仕切り」を組み合わせました。本とは「物語」の象徴、意図したのは物語を紐解くパッケージ。開くべき扉があるということは、そこに「商品との出会い」があります。これは商品パッケージで仕掛ける「心を揺さぶる」ストーリーテリングマーケティング。めざしたのは、開封時に引き込まれる「世界観」の演出です。

【sagasiki packaging Tips】
ミニマムスタート
プレーンなAシリーズ、少し甘めのBシリーズ、スパイシーなCシリーズ。見慣れない新商品、フルラインで揃った商品シリーズは圧巻です。しかし、開発費用と「売れないかもしれない」リスクは大きく、発売に二の足を踏んでしまいがち。特集のパッケージは「兼用箱」としての利用を想定したデザイン。初期投資額を低減させ、テストマーケティングを兼ねた発売をめざしています。

【Activity Introduction】
整う美しさ
同じ要素が繰り返される反復、均等配置で生まれる対称性、階調で整えるグラデーション。同じ形・色彩が繰り返すことでリズムが生まれ、視覚的な安定をもたらします。こうした「秩序」がもたらす効果は、しばしば美しさの理由として語られます。たとえば「きれいに並んだ商品」も秩序のひとつ。特集のパッケージでは、固定用フラップを設けた仕切りを用いて「商品を守り、秩序的に並べる」ことで、リズムと美しさを演出しています。
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