2025 8月 / Issue 158
筑前堀様
「博多ういろう」パッケージ
地域に由来した商品パッケージ開発では「連想の種」を取り込むことがポイント。その土地ならではの素材で“アイキャッチ”を作り、由来を知ったとき「そうなんだ!」という納得へと繋げ、認知と購入を後押しします。
由緒正しく、美しく。地域「らしさ」に溢れたパッケージ。
目覚めた後の日光浴、適度な軽い運動、家族や友人との対話、そして、毎日の食事。いずれも、わたしたちが何気なくおこなう日常の風景です。こうした人間にとって「あたりまえ」ともいえる行為は、過度の緊張や激しさといったストレスとは無縁で、ほのぼのと嬉しい多幸感や心地よい安らぎそのもの。中でも満足感を得やすいのは、心地よさに直結しやすい「甘味」ではないでしょうか。食事を締めくくるデザートや、おやつとしての「甘味=菓子」には、多くの人が顔をほころばせます。たとえば、日本語の菓子という文字に「果」の字が入っているのも、古代(縄文時代)から食物不足を補っていた果実(=果物)の甘みが特別で果実自体が「嗜好品」であったため。栄養摂取という必然的な目的より「幸福感」を大切にしたと考えると、納得です。きっと、上古の「菓子」もたくさんの微笑みをもたらしたことでしょう。
博多ういろうは「抹茶・ほうじ茶・白餡」が定番品。限定販売の季節商品も。
そもそも和菓子は蕨粉や砂糖といった植物性の原料を多く使うため、バターや生クリームを使用した高脂質な洋菓子とは素性が異なり、そのルーツが果物だと考えれば、上品な甘さも頷けます。甘さやカロリーが控えめで世代を問わず楽しめる上、見た目や素材で「日本らしさ」を伝えられる和菓子は、多様性や独自性が重視される現代だからこそ目が離せない存在。今回ご紹介するのは、まさにこうした和菓子のパッケージ開発。ご依頼いただいたのは、福岡・今宿で全室個室・離れ形式の囲炉裏焼き店を営む「筑前堀」様。博多が伝来の地とされる「博多ういろう」のパッケージです。
戦国の世が終わり、博多復興の象徴ともいえる「博多堀(はかたべい)」がキービジュアル。
定番品の「抹茶・ほうじ茶・白餡」をアイデアに、落ち着きと華やぎを演出したキーカラー。
重箱や竹籠を連想させるふっくらと上品な曲面構造の上蓋に、アクセントの「帯」を添えて。
箔押し・浮き出し・疑似エンボス。複数の表面加工による凹凸と質感の違いで高級感を演出。
中国明朝勃興期に日本(博多)に亡命した官吏・陳外郎(陳延祐)の一族が貴人の接待用に作った菓子が「ういろう」といわれています。実は、博多は“ういろう伝来の地”とされ、筑前堀様をはじめ、地元の有志が試行錯誤の末に完成させたのが「博多ういろう」でした。パッケージ開発のポイントは、由緒ある歴史を伝える高級感、そして「博多らしさ」です。具体的には、相次ぐ戦乱で溢れた瓦礫(石・瓦)を材料に造られたとされる「博多塀(はかたべい)」と呼ばれる町割りの土塀をキービジュアルに使用。ここに定番商品3種(抹茶・ほうじ茶・白餡)を象徴した色彩を纏わせ、表面加工「疑似エンボス」で質感を高めます。さらに、曲面構造の上蓋を用いた蓋身式構造に仕上げ、これを「帯留め」して、贈答用の重箱や趣き深い竹籠を連想させる上質な世界観を演出。表面加工「箔押し・浮き出し」で仕上げた品名を掲げ「博多ういろう」パッケージが誕生しました。
【sagasiki packaging Tips】
重箱仕立て
円柱に三角柱、そして四角柱。空間図形と呼ばれる立体構造のパッケージは、たくさんの商品を一度に出荷する大量生産には最適です。しかし、特別な素材や限定商品のように高級感や手仕事感を高めたい場合、機能や効率とは異なる視点が必要になります。特集のパッケージでは、蓋を曲面構造に仕上げることで「職人仕立ての重箱」のような、丁寧かつ柔和な印象を生み出しています。
【Activity Introduction】
埋もれない力
商品パッケージには、店頭での存在を高めて主張する「販売促進」的な面と、商品の存在理由を示して主張する「商品ブランディング」的な面があり、パッケージ開発は対象商品の性質に合わせて、高めるべき要素を検討しながら開発していきます。いずれの場合も、周囲の商品に埋もれないことが大切で「表面加工」を付与するのも方法のひとつ。特集のパッケージのように、複数の表面加工を駆使して印象を強めることも効果的な手法です。
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